文・中嶋 恵美子

『洋楽渡来考 』
皆川 達夫著 日本キリスト教団出版局 2006年出版

洋楽渡来考表紙

ザビエルが渡来したとき、日本にはどのような音楽が輸入されたのか? 一度気になりだすと調べずにはいられず、そんなときに出会ったのがこの本。

大学の卒論でなわとびうたを採取し、小泉文夫氏の著書を参考に分析したり、各地の民俗音楽について楽しくお話してくださる大学教授の影響で、日本の民俗音楽に興味を持つようになりました。山を削った新興住宅地で、受け継がれる文化というものを一切感じずに育ったので、大学の授業で開示される民俗音楽はとても新鮮で、魅力的に映ったのです。

その後、東海道沿いの子どもたちに代々受け継がれるお祭りの音色を耳にしたり、秋田のお葬式で1週間続く(今は3日だそう)音楽的なお経や風習に触れるなど、今に生きる歴史を知る機会が何度かありました。しかし、まさか今の世にキリシタンの島があり、その宗教的風習が息づいていたとは!

当時日本に輸入された音楽はルネサンス期の多声部による合唱ではなく、グレゴリオ聖歌だったようです。日本にも神学校ができ、1日1時間のレッスンを受けていた聖歌隊が歌っていました。その後、キリスト教弾圧によりほとんどが破棄、焼却されてしまったのですが、ネウマ音符に5本の横線を添えて記譜された『サカラメンタ提要』という、天正少年使節団が持ち帰ったラテン語典礼書が残されています。(1605年に長崎で印刷されたもの)

このように輸入された音楽が、日本人独特の文化に融合していくのです。日本独自のものに転じていったのは、鎖国とキリスト教弾圧が影響していたのではないでしょうか。皆川氏が研究した島に残る「オラショ」と呼ばれる神への賛美はラテン語で、島の人々は皆川氏が研究するまでラテン語とは知らず、「唐の言葉」と思っていたそうです。この島に伝承する「オラショ」の原曲を長年探し続けてきた皆川氏は、とうとうその楽譜をスペインで発見します。それはヨーロッパで広く歌われていたものではなく、スペインの一部の地域で歌われていたものでした。CDでは、スペインの原曲と島の「オラショ」の両方を聴くことができます。

この本は、キリシタンが消えていく最後の灯の記録。日本文化史における非常に貴重な資料ではないでしょうか。

洋楽渡来考

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中嶋 恵美子(なかじま えみこ)
ピアノ指導者。著書に『あきらめないで!ピアノ・レッスン』(ヤマハミュージックメディア、2011)、『発達障碍でもピアノが弾けますか?』(同2016)、『知っておきたい幼児の特性』(音楽之友社、2016)がある。
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