文・辻 有里香

『楽譜を読むチカラ 』
ゲルハルト・マンテル著 久保田慶一訳 音楽之友社

楽譜を読むチカラ表紙

30年ほどバイオリンを教えてきましたが、一番難しく、そして教える喜びを感じるのが「音楽表現」を教える時です。何も教えなくともセンス良く表現し始める生徒もいますし、なかなかそこに至らない場合もあります。技術が足りないという場合が多いのですが、ごく稀に、指も回るし、ボウイングも自由に動くのに、のっぺらぼうな表現からなかなか脱出できない生徒にもめぐり遇います。きっと何か突破口があるに違いない。でもそれはどういったことからアプローチしてあげればいいのだろうという思いの中で巡り合った本です。野球のイチロウ選手が、「自分は天才ではない、なぜならヒットを打てる理由を説明できるからだ。」と言ったそうですが、教師も上手に演奏できる理由を言葉で説明できることが大事で、必ずしも天才である必要はないのかもしれません。

どの章も素晴らしかったのですが、第11章の特徴をつけて演奏しよう では、アウフタクトをどう演奏する可能性があるか例を出して説明されています。ベートーベンの交響曲5番の2楽章の出だしのアウフタクトをどう演奏するのか、ただの弱拍として演奏するのか、特徴のある拍として演奏するのか、その場合はアクセントなのか、アウフタクトをクレッシェンドするのか。アクセントをつけるとジャズ風になり、カンタービレだとクレッシェンドになる。全体の関連も考えなければならない。といった具体的な説明が、この本の中に散りばめられています。

もっと歌って弾けば?というアドバイスだけでなく、この曲はカンタービレなのだからアウフタクトの部分はクレッシェンドしましょうという説明を教師ができれば、生徒が次に違う曲の同じ場面に巡り合った時に応用が効きますし、単に歌えと言われるよりずっと具体的です。

この本の紹介文を書くのに少し読み直しましたが、またしっかりと最初から読み直して、初心に帰ってレッスンをしたいと思います。   

楽譜を読むチカラ

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辻 有里香(つじ ゆりか)
東京でユリカミュージック(バイオリン)スクール主催。バイオリン、ビオラ指導者。古楽好きでバロックバイオリンとビオラ・ダ・ガンバを教室に置く。合奏を通して、「人との協調」「音楽」を教えるレッスンを続けている。
ユリカミュージックスクール
http://www.yurikaviolinschool.jp/