文・塚田 聡

『もう一人のメンデルスゾーン~ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯~ 』
山下 剛 著   未知谷 2006年6月5日発行

もう一人のメンデルスゾーン表紙

ファニーの書いた手紙や日記が文中で豊富に引用されている臨場感あふれる本書は、19世紀前半を生きたひとりの女性の一生が綴られた物語になっています。淡々と書かれているようで、いつのまにかファニーとともに喜び、物思いに沈み、幸せに包まれ。彼女と生涯を共にしているかのような気にさせる巧みな文章。
ユダヤ人と蔑まれ、女性ゆえに音楽家として羽ばたくことができなかったと、十分に才能を開花させる機会を逸したファニーの人生を憂う向きもありますが、弟フェーリクスと芸術を徹底的に深めた結婚までの生活、また夫となった画家のヴィルヘルムは、ファニーの音楽家としての活躍を常に快く後押ししてくれました。
ファニーの曲は女性にしか表現できないロマンティックな優しさに溢れていて常に上品。少しすまし顏がうかがえますが、聴く者の感情に穏やかに寄り添う暖かさがあります。
女性作曲家の復権はここ10年で随分と進みましたので、ファニーについても、歌曲、ピアノ曲、室内楽曲と多くを録音で聴くことができるようになりました。
ファニーや弟フェーリクスの作品に耳を傾けながらの珠玉の読書時間を過ごされてみてはいかがでしょう。最後に涙がこみあげ感動してしまうのも、やはりそこに音楽が鳴っているから。音楽本ならではの醍醐味を味わうことができます。


 ↓白黒ではありますが、夫ヴィルヘルムの描いた肖像画が散りばめられているのも嬉しい。
もう一人のメンデルスゾーン

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もう一人のメンデルスゾーン―ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯 [単行本]


塚田 聡(つかだ さとし)
古典派音楽をこよなく愛するホルン奏者。フラウト・トラヴェルソを愛奏。
ラ・バンド・サンパ
古典派シンフォニー百花繚乱
シューベルト研究所
ナチュラルホルンアンサンブル東京