文・杉山 真衣子

『 ピアノ演奏芸術―ある教育者の手記』
ネイガウス,ゲンリッヒ著 〈Нейгауз,М.Генрих〉/森松 皓子 訳
音楽之友社

s-ピアノ演奏技術表紙

目次
第1章 音楽作品の“芸術的イメージ”
第2章 いくつか、リズムについて
第3章 音について
第4章 技術についての探求
第4章への補足
第5章 先生と学生 第6章 コンサート活動について

この本の素晴らしさを自分の言葉でご紹介する前に、私自身が学生時代に5年以上かけて、ハイフィンガー奏法から、ロシアのネイガウスの奏法に変えざるを得なかった事実についてお話します。

ネイガウスの奏法は非常に合理的で、尚且つ天上の音楽のように美しい音色が特徴です。
彼自身のピアノを(録音でも)聴いたことのある方なら周知の事実でしょう。

この本は教育というよりも、

○音楽を教えることとは何か?
○芸術を継承させるとはどういうことなのか?

そのことが中心となって書かれています。
芸事を教える、学ぶことの本質がとてもよく理解できる本だと思います。

ギレリス、リヒテルのロシアの名ピアニストを育てたネイガウスですが、
ギレリスもリヒテルもそれぞれのピアニズムを持っていましたし、ピアニズムを継承するというよりも音楽自体を継承したといえるでしょう。

しかしながら、私自身の興味のあるネイガウスのピアニズムについて少し書かせていただきます。

176ページに出てくる言葉『ピアノを弾く手が<跳躍>をする場合、<音に当たる>と表現するより<音をとる>つまり取り出すと表現したいのです』
この表現はネイガウスの奏法で特徴の一つで人間の動作の中で、何かを掴むという動きは、非常に自然で、無理のないことだからです。

その他にも、この本には興味深い奏法に関するエピソードがたくさん盛り込まれています。

ただ、前述した通り、ネイガウスは<ピアノ奏法>のことに特化したピアノ教師ではなく、<音楽><芸術>を弟子たちに伝えたかった人生観がよく解ります。

何度読み返しても、音楽や生徒に対して、自分の向き合い方をいつも考えさせられます。

ピアノ教師には是非お読みいただきたい一冊です。

ピアノ演奏芸術

【音楽之友社】
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=143600
(Amazonでは中古しか取り扱いがなかったため、出版社にリンクしています。)


杉山真衣子(Maiko Sugiyama)Pf
桐朋女子高等学校音楽科(共学)を経て、桐朋学園大学音楽学部音楽学科ピアノ専攻を卒業。 全日本学生音楽コンクール高校の部 東京大会第2位はじめ、数多くのコンクールで受賞。 モーツァルトピアノコンチェルトK466、ロシアでラフマニノフ2番のコンチェルトの ソリストを務める。 B.P.MUSIC STUDIO主宰講師、指導歴22年(2017年)現在に至る。 親子で楽しめる地域活動イベントを行うほか、ソロリサイタルや室内楽の演奏会等の企画・ 運営・出演など各方面で活動。公財 日本ピアノ教育連盟、日本ギロック協会会員。 これまでに、故村尾アサ子、古藤幹子、故井上直幸、権藤譲子、ノレッタ・コンチ、 故ケンドル・テイラー、玉井美子、大野眞嗣、大石学の各氏に師事。
B.P.MUSIC STUDIO